萩の清酒は、総じて米由来のふくよかで上品な旨味と爽やかな酸味を主体とする、はつらつとした味わいに特徴がある。
香りは芳醇なバナナ、メロン、ライチに加えて青竹、新緑のものを感じる事ができる。その中でも吟醸酒はさらにリンゴやパイナップル等の果物の爽やかな香りを感じる事ができる。
余韻には一定の旨味が残るが酸味・苦み・アルコール感の切れの良さを有しているため、食事の邪魔にならず、続けて呑んでも呑み疲れしない酒質である。
萩の清酒は、そのはつらつとした味わいから、萩の特産品である白身魚や蒲鉾等の淡白な味の食品と合わせることで、食品が持つ繊細な味を引き立たせてくれる。
イ 自然的要因
萩の産地は、本州最西端に位置する山口県の北部に位置しており、北側が日本海に面している他は、標高400メートル程度の山に囲まれた、平地の少ない地域である。
この地域には、「阿武火山群」の火山活動により作り上げられた小規模な溶岩台地が点在しており、その間を縫うように複雑な流路形状で阿武川、蔵目喜川や田万川等が流れている。これら溶岩台地と河川の浸食により、むつみ地域や福栄地域を中心として、山間部には面積は狭いが水はけが良い粘質土壌による平らな台地が存在しており、稲作が盛んに行われてきた。
気候面では、日本海を流れる暖流の対馬海流の影響もあり、比較的温暖な気候である。特に、稲作が盛んな中山間地域では、7月から8月の気温の日較差が大きく、成熟した米の生産に向いているといえる。
酒造りに必要な水には、この地域に広く分布する、火山からの噴出物や地下のマグマが冷え固まった花崗岩等の火山性の岩石に起因する、ミネラル分が少なく、柔らかで良質な水を用いることができる。
酒造りが行われる冬季は、日照時間が短くなるが降水量は多いため、平均湿度が比較的高くなることから、この地域での酒造りに特徴的な影響を与えていると考えられる。
このような自然環境により、地元で採れた米と良質な水を原料とし醸造される萩の清酒は、米由来のふくよかで上品な旨味と爽やかな酸味を有する酒質となる。
ロ 人的要因
この地域を流れる阿武川下流には三角州が広がっており、17世紀には毛利輝元により萩城下町が築かれ、長州藩の拠点として発展してきた。
長州藩は、財政状況を改善するため、米の生産量を向上させるとともに、塩や紙等の特産物の生産にも注力していった。この地域でも、水田が開墾されるとともに、日本海の新鮮な魚を加工した蒲鉾等の特産物が生産された。
こうして発展した萩城下町で消費される酒は、三方を山に囲まれている地理的要因から、海路又は峠を越えて輸送することが必要であったが、萩城下町の周辺地域で稲作が行われるようになったことにより、この地域で収穫した米を原料とした酒造りも行われるようになっていった。
酒造りの技術は、山口県長門市(旧大津郡日置町)周辺に存在する大津杜氏によりもたらされ、その影響を強く受けながらこの地域に適した酒造りの方法を確立していった。
現在でも、酒蔵に在籍する醸造学や発酵学を学んだ技術者と大津杜氏の交流を活発に行っており、大津杜氏の有する高度な醸造技術について、科学的見地による裏付けを行いながらこの地域の環境に合わせた技術とすることで、萩の特性の維持や向上に努めている。
また、1990年頃から蔵元主導で現地の農家と組んでタンパク質の含有量の少ない酒米作りの取組をしており、さらに、蔵元と現地の農家が出資する萩酒米みがき協同組合が、酒米精米施設である「萩酒米とう精工場」を整備するなど、良質な原料米の確保に一役を買っている。
このように、江戸時代から続く地産地消の伝統を踏まえながら、酒類製造業者や酒米生産者のみならず、地域の流通業者や消費者が大勢参加し、田植えや稲刈り作業をするなど、地域全体で酒造りに取り組む機運も醸成されている。
イ 米及び米こうじに、産地の範囲内で収穫した米(農産物検査法(昭和26年法律第144号)により3等以上に格付けされたもの)のみを用いたものであること。
ロ 水に産地の範囲内で採水した水のみを用いたものであること。
ハ 酒税法第3条第7号に規定する「清酒」の原料を用いたものであること。
ただし、酒税法施行令第2条に規定する清酒の原料のうち、アルコール(原料中、アルコールの重量が米(こうじ米を含む。)の重量の100分の50を超えない量で用いる場合に限る。)以外は用いることができないものとする。
イ 酒税法第3条第7号に規定する清酒の製造方法により、産地の範囲内において製造したものであること。
ロ 製造工程上、貯蔵する場合は産地の範囲内で行うこと。
ハ 消費者に引き渡すことを予定した容器に産地の範囲内で詰めること。
地理的表示「萩」を使用するためには、当該使用する酒類を酒類の製造場(酒税法(昭和28年法律第6号)第28条第6項又は第28条の3第4項の規定により酒類の製造免許を受けた製造場とみなされた場所を含む。)から移出(酒税法第28条第1項の規定の適用を受けるものを除く。)するまでに、当該使用する酒類が「酒類の産地に主として帰せられる酒類の特性に関する事項」及び「酒類の原料及び製法に関する事項」を満たしていることについて、次の団体(以下「管理機関」という。)により、当該管理機関が作成する業務実施要領に基づく確認を受ける必要がある。
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