1 照会内容
私は、認知症高齢者グループホーム用の建物(以下「本件建物」といいます。)を取得し、本件建物を「グループホーム○○○別荘」として、(株)A(以下「介護事業者」といいます。)に賃貸しています。また、介護事業者は、認知症高齢者グループホームの入居者との間で「認知症対応型共同生活介護契約書」を締結し、本件建物において、入居者に対して介護保険法に定める認知症対応型共同生活介護に係る介護サービス(以下「本件介護サービス」といいます。)を提供しています。
この認知症対応型共同生活介護とは、介護保険法に定める要介護者であって認知症であるものについて、その共同生活を営むべき住居において、日常生活上の世話等を行うことであり、介護事業者は入居者に対し本件建物を住居として提供し、日常生活上の世話等を行っています。
住宅の貸付けは、消費税法上、非課税であり、住宅用の建物を賃貸する場合において、賃借人が自ら使用しない場合であっても、当該賃貸借に係る契約書等において、賃借人が住宅として転貸することが明らかなときは、当該住宅用の建物の貸付けは、住宅の貸付けに含まれることから、私が収受する本件建物に係る賃料収入(以下「賃料収入」といいます。)は、非課税となると考えられます。
一方、住宅と店舗又は事務所等の事業用施設が併設されている建物を一括して貸し付ける場合には、住宅として貸し付けた部分のみが非課税となることから、介護事業者が事務室等として使用する本件建物の部分は、課税となるとも考えられます。
しかしながら、本件建物は、認知症高齢者グループホームの用に供されることから、当該事務室等として使用される部分を含む本件建物全体が住宅に該当すると考えます。また、私と介護事業者との間で締結されている本件建物に係る建物賃貸借契約書(以下「賃貸借契約書」といいます。)において、介護事業者が本件建物を認知症高齢者グループホームの用に供し、入居者に対して本件建物を住居として提供することが明らかであることから、私が介護事業者に対して行う本件建物の貸付け(以下「本件建物の貸付け」といいます。)は、住宅の貸付けに該当すると考えます。
なお、賃貸借契約書において、本件建物の敷地(以下「本件敷地」といいます。)を駐車場・駐輪場として利用することも可能としていますが、本件敷地は、本件建物の利用に伴って土地が使用されるものであり、賃料収入とは別にその使用料を収受するものではないこと等から、本件敷地を含めた全体が住宅の貸付けに該当するものと考えます。
したがって、本件建物の貸付け(本件敷地を含みます。)は、その全体が住宅の貸付けに該当し、賃料収入の全額を非課税として取り扱って差し支えないか照会いたします。
また、私が個別対応方式により仕入れに係る消費税額を計算する場合には、本件建物の取得に係る課税仕入れは、「課税資産の譲渡等以外の資産の譲渡等にのみ要するもの」に区分してよいか照会いたします。
2 事実関係
(1) 認知症対応型共同生活介護について
認知症対応型共同生活介護とは、介護保険法に定める要介護者であって認知症であるものについて、その共同生活を営むべき住居において、入浴、排せつ、食事等の介護その他の日常生活上の世話及び機能訓練を行うことをいうこととされており(介護保険法8)、このような認知症高齢者のための共同生活住居は、一般的に「認知症高齢者グループホーム」と称されています。本件において、私及び介護事業者は、認知症高齢者グループホームを単に、「グループホーム」と称しており、各種契約書においてその旨表記しております。
(2) 本件建物の工事請負契約書等
私と本件建物の工事請負業者との間で締結されている「工事請負契約書」において、本件建物の工事名称を「○○○グループホーム新築工事」としており、本件建物は認知症高齢者グループホームの用に供することを目的として建設された建物です。
(3) 本件建物の賃貸借契約書
賃貸借契約書において、本件建物を「グループホーム○○○別荘」として、使用目的を「介護保険居宅サービス事業」、用途を「グループホーム」としており、介護事業者は本件建物を介護保険居宅サービス事業所としてのみ使用し、この目的以外に使用することはできないこととされています。
なお、賃貸借契約書の特約事項として、本件建物所在の敷地(駐車場・駐輪場)の利用も可能とし、その料金は本契約の賃料に含まれるものとされています。
(4) 本件建物の構成及び使用方法
本件建物の構成及びその使用方法は次のとおりであって、介護事業者が本件建物を入居者以外の者に利用させている部分はありません。
イ 居室
ベッド等が設置され、入居者が生活をするプライバシーが確保された空間であり、入居者が生活を営む場として使用します。
ロ リビング
テーブルやテレビ等が設置され、入居者が食事や余暇を楽しむために使用します。なお、入居者が食事をする際には、入居者に対して本件介護サービスを提供するために配置された職員(以下「介護職員」といいます。)も一緒に食事をしながら介護を行います。
ハ 浴室・脱衣所・トイレ
入居者が入浴、排せつのために使用します。なお、介護職員は入居者に対して入浴、排せつの介護を行います。
ニ 廊下・エレベーター・階段
入居者及び介護職員が建物内を移動するために使用します。
ホ 談話室兼休憩室
入居者の家族と介護職員が入居者の本件建物内での生活に係る相談等をするために使用します。また、家族との相談等に使用していないときは、介護職員が休憩するために使用します。
へ 洗濯コーナー
洗濯機等が設置され、介護職員が入居者の衣類等を洗濯するために使用します。
ト 台所
調理機器が設置され、介護職員が入居者及び介護職員に食事を提供等するために使用し、入居者も食器の後片付け等をするために使用します。
チ 事務室、ロッカールーム
事務室には事務机や事務用機器が設置され、介護職員が入居者に対して本件介護サービスを提供するための事務を行うために使用します。
ロッカールームにはロッカーが設置され、介護職員が入居者の介護を行う際の作業着に着替えるためや、介護職員の荷物を収納するために使用します。
リ ウォークインクローゼット(物置部屋)
入居者のために使用する介護用品及び生活に必要な資材等を収納する物置として使用します。
(5) 本件敷地
イ 構造、広さ及び用途
本件敷地には、本件建物の正面入口前、外階段の前及び本件建物の脇に合計5台の自動車を駐車することが可能ですが、その構造上フェンス等で建物と区切られておらず、車止めや駐車スペースを示すラインの表示もなされていません。
また、これらの場所は、入居者の移動手段として介護事業者が所有するリフト付き自動車、救急車並びに介護職員及び入居者の家族が所有する自動車等を駐車するスペースとして利用するものです。
ロ 使用料
本件敷地は、賃貸借契約書において「本建物所在の敷地(駐車場・駐輪場)の利用も可能とし、その料金は本契約の賃料に含まれるものとする。」としています。
また、介護事業者は、本件敷地に自動車等を駐車する者から利用料等を求めないこととしています。
3 照会者の見解となる理由
(1) 消費税法の規定等
イ 住宅の貸付けに係る非課税規定
消費税上、「住宅の貸付け」は非課税とされており、この場合の「住宅」とは、人の居住の用に供する家屋又は家屋のうち人の居住の用に供する部分をいい、「住宅の貸付け」とは、当該貸付けに係る契約において人の居住の用に供することが明らかにされているものに限られます(消法6、消法別表第一第十三号)。
また、「住宅の貸付け」には、庭、塀その他これらに類するもので、通常、住宅に付随して貸し付けられると認められるものや住宅の附属設備として住宅と一体となって貸し付けられると認められるものが含まれますが、住宅の附属設備又は通常住宅に付随する施設等と認められるものであっても、当事者間において住宅とは別の賃貸借の目的物として、住宅の貸付けの対価とは別に使用料等を収受している場合には、当該設備又は施設の使用料等は非課税とはならないとされています(消基通6-13-1)。
なお、消費税が非課税となるものとして「土地の貸付け」がありますが、建物等の施設の利用に伴って土地が使用される場合のその土地を使用させる行為は、土地の貸付けから除かれるとされています(消基通6-1-5)。
ロ 店舗等併設住宅の取扱い
住宅と店舗又は事務所等の事業用施設が併設されている建物を一括して貸し付ける場合には、住宅として貸し付けた部分のみが非課税となります。この場合は、当該建物の貸付けに係る対価の額を住宅の貸付けに係る対価の額と事業用の施設の貸付けに係る対価の額とに合理的に区分することとされています(消基通6-13-5)。
ハ 転貸する場合の取扱い
住宅用の建物を賃貸する場合において、賃借人が自ら使用しない場合であっても、当該賃貸借に係る契約において、賃借人が住宅として転貸することが契約書その他において明らかな場合には、当該住宅用の建物の貸付けは、住宅の貸付けに含まれるとされています(消基通6-13-7)。
ニ 個別対応方式により仕入れに係る消費税額の計算をする場合
事業者は、その課税期間中の課税売上割合が95%未満の場合には、当該課税期間中の課税売上げに係る消費税額から、課税仕入れ等に係る消費税額のうち、課税売上げに対応する部分のみを控除して仕入れに係る消費税額を計算することとされており、この場合の個別対応方式による計算方法は、次のとおりです(消法30)。
その課税期間中の課税仕入れ等に係る消費税額の全てを、
に区分し、「+(×課税売上割合)」の算式により計算した仕入控除税額をその課税期間中の課税売上げに係る消費税額から控除します。
(2) 裁決事例
外部利用のある診療所等が併設されている介護付有料老人ホームにおける住宅の貸付けの範囲について、平成22年6月25日付国税不服審判所裁決では、消費税法上、非課税となる住宅とは、「住宅賃借人が日常生活の用に供する場所を指すものと解されるから、住宅の貸付けの範囲の判定に当たっては、住宅賃借人が日常生活を送るために必要な場所と認められる部分は、すべて住宅に含まれると解するのが相当である。」と判断しています。
また、消費税法上、非課税となる住宅の貸付けの範囲の判定に当たっては、「介護付有料老人ホームは、入居した老人が、入浴、排せつ、食事などに係る介護を受けながら日常生活を送る場所であるところ、その建物が介護付有料老人ホームの用に供されている場合にあっては、単に寝食の場ということではなく、入居した老人が介護等のサービスを受けながら日常生活を営む場であるというべきであるから、介護付有料老人ホーム用建物の内部に設置された介護サービスを提供するための施設は、入居した老人が日常生活を送る上で必要不可欠な場所であるというべきであり、住宅に含まれると判断するのが相当である。」と判断しています。
当該裁決では、介護付有料老人ホームの各部分について入居者が日常生活を送る上で必要と認められる部分に該当するか否かを判断しており、個室及び居間・食堂等、宿直室等、厨房等、スタッフステーション等及び事務室の一部(入居者のための介護サービスに関する事務を行うために使用する部分)は、いずれも入居者が生活を営む場及び日常生活を送る上で必要な部分と認め、住宅に含まれるとしています。
(3) 認知症高齢者グループホームは住宅に該当すること
上記(2)のとおり、当該裁決では、消費税が非課税とされる「住宅の貸付け」の範囲の判定に当たっては、住宅賃借人が日常生活を送るために必要な場所と認められる部分は、全て住宅に含まれると解するのが相当であるとされています。
認知症高齢者グループホームは、入居者が、共同生活を営む住居において、入浴、排せつ、食事等の介護その他日常生活上の世話を受ける場所であることから、単に寝食の場ということでなく、入居者が介護サービスの提供を受けながら日常生活を営む場であると考えます。
そして、本件建物についても、上記2(4)イからニまでに掲げる部分は、入居者が日常生活を営む場であり、また、本件建物の内部に設置された上記2(4)ホからリまでに掲げる部分は、介護職員が入居者に対して本件介護サービスを提供するために必要な部分であることから、入居者が日常生活を送る上で必要な場所であると認められ、住宅に含まれると判断するのが相当であると考えます。
したがって、本件建物の全体が住宅に該当すると考えます。
(4) 住宅として転貸することが契約書において明らかであること
私及び介護事業者は、入居者が本件介護サービスの提供を受けながら共同生活を営む住居のことを「グループホーム」と称しており、賃貸借契約書では、本件建物の使用目的を「介護保険居宅サービス事業」、用途を「グループホーム」と明示していることから、介護事業者が本件建物を認知症高齢者グループホームの用に供し、入居者に対し本件建物を住居として提供することが明らかであると認められ、本件建物の貸付けは、消費税法基本通達6-13-7の「賃借人が住宅として転貸することが契約書その他において明らかな場合」に該当し、住宅の貸付けに含まれるものと考えます。
(5) 本件敷地の検討
本件敷地は、上記2(5)イのとおり、駐車場等としての用途に応じた整備等がなされておらず、介護事業者又は入居者の家族等が本件建物の利用に伴って使用するものです。また、私は、上記2(5)ロのとおり、本件敷地を本件建物とは別の賃貸借の目的物として、賃料収入とは別に使用料を収受していないことから、本件敷地は本件建物の利用に伴って土地が使用されるものであると認められ、本件敷地を含めた全体が住宅の貸付けに該当するものと考えます。
(6) 結論
イ 本件建物の貸付けに係る消費税の取扱い
本件建物は、認知症高齢者グループホームの用に供され、介護事業者が事務室等として使用する部分は、入居者が日常生活を送る上で必要な場所であることから、本件建物全体が住宅に該当すると認められ、また、賃貸借契約書において、介護事業者が本件建物を認知症高齢者グループホームの用に供し、入居者に対し本件建物を住居として提供することが明らかであると認められることから、本件建物の貸付けは、住宅の貸付けに該当するものと考えます。
また、本件敷地は、本件建物の利用に伴って土地が使用されるものであり、賃料収入とは別にその使用料を収受するものではないこと等から、本件敷地を含めた全体が住宅の貸付けに該当するものと考えます。
したがって、本件建物の貸付け(本件敷地を含む。)は、その全体が住宅の貸付けに該当し、賃料収入の全額が非課税となると考えます。
ロ 本件建物の取得に係る課税仕入れ
本件建物の取得は、事業者である私が、事業として他の者から資産(本件建物)を譲り受けたものであることから、消費税法上の課税仕入れに該当すると考えます。
そして、私が個別対応方式により仕入れに係る消費税額を計算する場合の区分については、本件建物は、非課税となる住宅の貸付けに供されるものであることから、課税資産の譲渡等以外の資産の譲渡等にのみ要するものに該当すると考えます。